⚫医療費控除:領収書は全部取っておく必要があるの?捨てちゃった時は?
「領収書もうないんですが。。。大丈夫ですか?」
よくある話です。
この点については平成29年分の確定申告から扱いが変わっていますので、少し扱いたいと思います。
《平成28年までの条文》
確定申告自体所得税法に基づいて行うわけですから、所得税法の規定でどうなっているかを確認することが一番重要です。
どんな規定になっているでしょうか?
【所得税法条文】所得税法第120条(確定所得申告)第3項
所得税法第120条(確定所得申告)第3項
3 次の各号に掲げる居住者が第一項の規定による申告書を提出する場合には、政令で定めるところにより、当該各号に定める書類を当該申告書に添付し、又は当該申告書の提出の際提示しなければならない。
一 第一項の規定による申告書に雑損控除、医療費控除、社会保険料控除(第七十四条第二項第五号(社会保険料控除)に掲げる社会保険料に係るものに限る。)、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除又は寄附金控除に関する事項の記載をする居住者 これらの控除を受ける金額の計算の基礎となる金額その他の事項を証する書類
医療費控除で確定申告をする場合には、政令で定められた書類を添付したり提示したりしないといけないと書いてあります。
それで、この規定通りにやらないいけません。
「自分に有利な所得税法の規定にある医療費控除の規定だけ適用して」というのはさすがにわがままですね。
そして、「政令で定められた書類」という中身を見てみましょう。
【所得税法施行令条文】所得税法施行令第262条(確定申告書に関する書類の提出又は提示)
所得税法施行令第262条(確定申告書に関する書類の提出又は提示)
第1項2号
二 確定申告書に医療費控除に関する事項を記載する場合にあつては、当該申告書に記載したその控除を受ける金額の計算の基礎となる法第七十三条第二項(医療費控除)に規定する医療費につきこれを領収した者のその領収を証する書類
施行令の条文では
「これを領収した者のその領収を証する書類」
を提出又は提示しなければならないとあります。
病院その他の領収書が必要なわけです。
現時点で通常のネット検索だと確認できる条文はこのぐらいかもしれません。
実際昨年の確定申告についてはここまでの規定になっています。
なので、「領収書は失くしたら再発行してもらいましょう」
というようなことになっていました。
ただ、平成29年税制改正で所得税法、施行令、施行規則の条文が大きく変わりました。
そちらを見てみましょう。
《改正された条文》
条文は大きく変わりました。
ポイントとしては
①領収書の添付ではなくて、明細書を作成して添付することになり
②「医療費の通知」がかなり重要なものとして税法でも認められました。
明細書は次のようなものです。
医療費を各部分が2か所あります。
①通知から合計額を移す部分
②領収書を一枚一枚書く部分
です。
【改正条文】所得税法120条
4 第一項の規定による申告書に医療費控除に関する事項の記載をする居住者が当該申告書を提出する場合には、次に掲げる書類を当該申告書に添付しなければならない。
一 当該申告書に記載した医療費控除を受ける金額の計算の基礎となる第73条第2項(医療費控除)に規定する医療費(次項において「医療費」という。)の額その他の財務省令で定める事項(以下この項において「控除適用医療費の額等」という。)の記載がある明細書(次号に掲げる書類が当該申告書に添付された場合における当該書類に記載された控除適用医療費の額等に係るものを除く。)
二 高齢者の医療の確保に関する法律第7条第2項(定義)に規定する保険者又は同法第148条(広域連合の設立)に規定する後期高齢者医療広域連合の当該居住者が支払った医療費の額を通知する書類として財務省令で定める書類で、控除適用医療費の額等の記載があるもの
5 税務署長は、前項の申告書の提出があった場合において、必要があると認めるときは、当該申告書を提出した者(以下この項において「医療費控除適用者」という。)に対し、当該申告書に係る確定申告期限(当該申告書が国税通則法第61条第1項第2号(延滞税の額の計算の基礎となる期間の特例)に規定する還付請求申告書である場合には、当該申告書の提出があった日)の翌日から起算して5年を経過する日(同日前6月以内に同法第23条第1項(更正の請求)の規定による更正の請求があった場合には、当該更正の請求があった日から6月を経過する日)までの間、前項第1号に掲げる書類に記載された医療費につきこれを領収した者のその領収を証する書類の提示又は提出を求めることができる。この場合において、この項前段の規定による求めがあったときは、当該医療費控除適用者は、当該書類を提示し、又は提出しなければならない。
●所得税法施行令
施行令ついては上記の
確定申告で提出又は提示しなければならない「領収を証する書類」についての
条文が削除されました。
「領収書を添付して出せ」ということがなくなったわけです。
●所得税法施行規則
施行規則には次の条文が追加されました。
【所得税法施行規則】第47条の2
第47条の2
8 法第120条第4項第1号(確定所得申告)に規定する財務書令で定める事項は、確定申告書に記載した医療費控除を受ける金額の計算の基礎となる次に掲げる事項とする。
一 その年中において支払った法第73条第2項(医療費控除)に規定する医療費(次号及び第3号において「医療費」という。)の額
二 当該医療費に係る令第207条各号(医療費の範囲)に掲げるもの(次号において「診療等」という。)を受けた者の氏名
三 当該医療費に係る診療等を行った病院、診療所その他の者の名称又は氏名
四 その他参考となるべき事項
9 法第120条第4項第2号に規定する財務省令で定める書類は、次に掲げる書類とする。
一 健康保険法施行規則(大正15年内務省令第36号)第112条の2(医療費の通知)の保険者の同条各号に掲げる事項が記載された書類
二 国民健康保険法施行規則(昭和33年厚生省令第53号)第32条の7の2(医療費の通知)の保険者の同条各号に掲げる事項が記載された書類
三 高齢者の医療の確保に関する法律施行規則(平成19年厚生労働省令第129号)第82条の2(医療費の通知)の後期高齢者医療広域連合の同条各号に掲げる事項が記載された書類
四 船員保険法施行規則(昭和15年厚生省令第5号)第155条の2(医療費の通知)の協会の同条各号に掲げる事項が記載された書類
五 国家公務員共済組合法施行規則(昭和33年大蔵省令第54号)第113条の3の2(医療費の通知)の組合の同条各号に掲げる事項が記載された書類
六 地方公務員等共済組合法施行規則(昭和37年(総理府)(自治省)文部省令第1号)第119条の5(医療費の通知)の組合の同条各号に掲げる事項が記載された書類
七 私立学校教職員共済法施行規則(昭和28年文部省令第28号)第16条の4(医療費の通知)の事業団の同条各号に掲げる事項が記載された書類
結構な文字数の追加です。
①明細書を作成して
②○○法で作成された「医療費の通知」という書類を出してね
という内容になっているかと思います。
《それで、領収書失くしたらどうなの?》
まず、確定申告の時には領収書の提出は不要になりました。保険医療の領収書は失くしても捨ててもOKです。
それに対してこれまで医療費控除で使用することのなかった「医療費の通知」というものを確定申告の時に使用することになりました。
「医療費の通知」というのは加入する健康保険組合によって多少違う形式ですが、
それぞれの法律で規定されていて一年分の確定申告の時期の少し前に送られてくるものです。
この「医療費の通知」の添付が必要になりました。
明細書にこの通知の右下の数字を書けばOKです。
それで、「保険医療」については領収書はもう不要になったということでしょうか??
よくよく見るとわかりますが、
「『医療費の通知』にない『医療費』」は
領収書を集めておく必要があります。
この通知でいうと、11月、12月分と
「保険適用外の医療費」です。
これらの領収書については
「5年間保管しておいてね」
ということになっています。
というわけなので、
領収書はかなり不要ですね。
とはいえ、全部なくてもいいと覚えておくと大変です。
病院の保険適用の医療については領収書自体が要らなくなりました。
《まとめ》
平成28年までは領収書の添付又は提示が法律で規定されていましたが、その規定は削除されました。
平成29年からは、領収書ではなくて「医療費の通知」という書類の添付が必要です。
その「医療費の通知」の数字を使うものについては明細書の作成も不要です。
「保険医療だけで医療費控除をする方」はだいぶ書類作成事務が簡素化されました。
領収書も大半がいらないようです。
とはいえ、確定申告期に間に合わせようとするとどうしても領収書が必要な部分が出てきてしまいます。
「保険適用外の医療費」や「医療費のお知らせ」に間に合わない期間の領収書です。
こうしたものの領収書を保管しておくようにしましょう。
一方で「医療費の通知」が来なかったり失くしてしまったりすると、医療費控除できませんね。
大切な書類になります。きちんと保管しておきましょう。
※ちなみに平成31年までは「従来通りの方法」で医療費控除を申告することも認められています。
「保険医療も保険対象外の医療も全部領収書を全部集めて税務署に提出する」というやり方です。