「領収書を集める」
会社の名前で領収書を書いてもらうということは日常的に見かけます。
個人事業者の人も行なっているイメージがあります。
どちらも領収書を
「経費で落とす」ためです。
でも、サラリーマンが「領収書を集める」のはあまり見かけません。
なぜでしょうか?
「サラリーマンの経費計上の税制を知らない」
もしくは、
「使う気がない」からです。
「経費にならない」わけではありません。
きちんと領収書を集めて手続きサラリーマンでも、領収書から経費計上することは可能です。
「そんな税制の存在を知らないし。。」
という人も結構いると思います。
なにせ、この「特定支出控除」については大半の人にとって知っていても知らなくてもさほど差はありません。受けられる人が極端に少ないからです。
税理士事務所の中でもかなり忘れ去られそうになる税制です。
でも、ずっと永遠にこの「特定支出控除」を使えないのか??
というとそうでもありません。
ある日突然、「特定支出控除」を使用できる状況になる
なんてことも起こり得ます。
そんな時、手続きが後手を踏むと結果として高い税金を納めることになります。
(「ある日突然、個人事業者になる」のと似てますね。知らないでなにもせずに確定申告を迎えると結果として高い税金になってしまいます。)
そんなことにならないために一応、この税制について解説しておきたいと思います。
1.どんな制度なの?
(1)そもそもの話
「サラリーマンの経費計上」ということで書いていますが、
そもそもの話をするとサラリーマンは領収書を集めなくても必要経費が認められています。
それが「給与所得控除」というものです。
この表によれば給料をもらっている人はどんな人でも65万円の経費は認められていることがわかります。
「領収書なんて一枚もなくても65万円が経費になる」
個人事業主にしてみたら、かなり羨ましい話です。
年収1000万円超の人は220万円も認められます。
※「領収書のいらない経費」
個人事業の規模が大きくなってきたら「会社設立」を検討する一つの要素です。会社を設立して給料をもらうようにするだけで領収書のいらない経費が認められます。あとは会社設立費用との比較で損得計算ですね。
とまあ、給料をもらうサラリーマンは実に優遇された制度のもとにあるわけなのです。
ただ、ここで考え深い人がさらに疑問を呈します。
「でもさー、サラリーマンだって
スーツや書籍とか買ったりしたら、合計が給与所得控除の額より大きな額になる年だってあるんじゃないの?」
・・・・んまあ、、、そうかも。。
という話がかつてありました。
興味のある下記の判例を読んでみてください。
大嶋訴訟最高裁昭和60年3月27日
大嶋訴訟最高裁昭和60年3月27日
【簡単に言うと】
「所得税法の給与所得控除の条文が不公平だから憲法違反で無効なんじゃないの?」
という訴えに対し、
「若干、不公平っぽいけど、超不公平ではないから『憲法違反で無効』とまでは言えないですね」という判決です。
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理 由
上告代理人山田近之助の上告理由について
一 所論は、要するに、本件課税処分の根拠をなす昭和四〇年法律第三三号による改正前の所得税法(昭和二二年法律第二七号。以下「旧所得税法」という。)中の給与所得に係る課税関係規定(以下「本件課税規定」という。)は、次のとおり、事業所得者等の他の所得者に比べて給与所得者に対し著しく不公平な所得税の負担を課し、給与所得者を差別的に扱つているから、憲法一四条一項の規定に違反し無効であるとの前提に立つて、本件課税規定を合憲と判断した原判決を非難するものである。
1 旧所得税法は、事業所得等の金額の計算について、事業所得者等がその年中の収入金額を得るために実際に要した金額による必要経費の実額控除を認めているにもかかわらず、給与所得の金額の計算については、給与所得者がその年中の収入金額を得るために実際に要した金額による必要経費の実額控除を認めず、右金額を著しく下回る額の給与所得控除を認めるにとどまるものである。
2 旧所得税法は、事業所得等の申告納税方式に係る所得の捕捉率に比し給与所得の捕捉率が極めて高くなるという仕組みになつており、給与所得者に対し所得税負担の不当なしわ寄せを行うものである。
3 旧所得税法は、合理的な理由のない各種の租税優遇措置が講じられている事業所得者等に比べて、給与所得者に対し過重な所得税の負担を課するものである。
二 まず、給与所得に係る必要経費の控除の点について判断する。
1 旧所得税法は、所得税の課税対象である所得をその性質に応じて一〇種類に分類した上、不動産所得、事業所得、山林所得及び雑所得の金額の計算については、それぞれその年中の総収入金額から必要経費を控除すること、右の必要経費は当該総収入金額を得るために必要な経費であり、家事上の経費、これに関連する経費(当該経費の主たる部分が右の総収入金額を得るために必要であり、かつ、その必要である部分が明瞭に区分できる場合における当該部分に相当する経費等を除く。以下同じ。)等は必要経費に算入しないことを定めている。また、旧所得税法は、配当所得、譲渡所得及び一時所得の金額の計算についても、「その元本を取得するために要した負債の利子」、「その資産の取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費」又は「その収入を得るために支出した金額」を控除することを定めている。
一方、旧所得税法は、給与所得の金額はその年中の収入金額から同法所定の金額(収入金額が四一万七五〇〇円以下である場合には一万七五〇〇円と当該収入金額から一万七五〇〇円を控除した金額の一〇分の二に相当する金額との合計額、収入金額が四一万七五〇〇円を超え七一万七五〇〇円以下である場合には九万七五〇〇円と当該収入金額から四一万七五〇〇円を控除した金額の一〇分の一に相当する金額との合計額、収入金額が七一万七五〇〇円を超え八一万七五〇〇円以下である場合には一二万七五〇〇円と当該収入金額から七一万七五〇〇円を控除した金額の一〇分の〇・七五に相当する金額との合計額、収入金額が八一万七五〇〇円を超える場合には一三万五〇〇〇円)を控除した金額とすることを定めている(この控除を以下「給与所得控除」という。)。ところで、給与所得についても収入金額を得るための必要経費の存在を観念し得るところ、当時の税制調査会の答申及び立法の経過に照らせば、右の給与所得控除には、給与所得者の勤務に伴う必要経費を概算的に控除するとの趣旨が含まれていることが明らかであるから、旧所得税法は、事業所得等に係る必要経費については、事業所得者等が実際に要した金額による実額控除を認めているのに対し、給与所得については、必要経費の実額控除を認めず、代わりに同法所定額による概算控除を認めるものであり、必要経費の控除について事 業所得者等と給与所得者とを区別するものであるということができる。
2 そこで、右の区別が憲法一四条一項の規定に違反するかどうかについて検討 する。
(一) 憲法一四条一項は、すべて国民は法の下に平等であつて、人種、信条、性 別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別され ない旨を明定している。この平等の保障は、憲法の最も基本的な原理の一つであつ て、課税権の行使を含む国のすべての統治行動に及ぶものである。しかしながら、 国民各自には具体的に多くの事実上の差異が存するのであつて、これらの差異を無 視して均一の取扱いをすることは、かえつて国民の間に不均衡をもたらすものであ り、もとより憲法一四条一項の規定の趣旨とするところではない。すなわち、憲法 の右規定は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、合理的理由なくし て差別することを禁止する趣旨であつて、国民各自の事実上の差異に相応して法的 取扱いを区別することは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反する ものではないのである(最高裁昭和二五年(あ)第二九二号同年一〇月一一日大法 廷判決・刑集四巻一〇号二〇三七頁、同昭和三七年(オ)第一四七二号同三九年五 月二七日大法廷判決・民集一八巻四号六七六頁等参照)。
(二) ところで、租税は、国家が、その課税権に基づき、特別の給付に対する反 対給付としてでなく、その経費に充てるための資金を調達する目的をもつて、一定 の要件に該当するすべての者に課する金銭給付であるが、およそ民主主義国家にあ つては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として 代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきものであり、我が国の憲法も、 かかる見地の下に、国民がその総意を反映する租税立法に基づいて納税の義務を負 うことを定め(三〇条)、新たに租税を課し又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要としている(八四条)。それゆえ、課税要 件及び租税の賦課徴収の手続は、法律で明確に定めることが必要であるが、憲法自 体は、その内容について特に定めることをせず、これを法律の定めるところにゆだ ねているのである。思うに、租税は、今日では、国家の財政需要を充足するという 本来の機能に加え、所得の再分配、資源の適正配分、景気の調整等の諸機能をも有 しており、国民の租税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等の国政全般 からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、 極めて専門技術的な判断を必要とすることも明らかである。したがつて、租税法の 定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正 確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判 所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。そ うであるとすれば、租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱い の区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採 用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限 り、その合理性を否定することができず、これを憲法一四条一項の規定に違反する ものということはできないものと解するのが相当である。
(三) 給与所得者は、事業所得者等と異なり、自己の計算と危険とにおいて業務 を遂行するものではなく、使用者の定めるところに従つて役務を提供し、提供した 役務の対価として使用者から受ける給付をもつてその収入とするものであるところ、 右の給付の額はあらかじめ定めるところによりおおむね一定額に確定しており、職 場における勤務上必要な施設、器具、備品等に係る費用のたぐいは使用者において 負担するのが通例であり、給与所得者が勤務に関連して費用の支出をする場合であ つても、各自の性格その他の主観的事情を反映して支出形態、金額を異にし、収入 金額との関連性が間接的かつ不明確とならざるを得ず、必要経費と家事上の経費又はこれに関連する経費との明瞭な区分が困難であるのが一般である。その上、給与 所得者はその数が膨大であるため、各自の申告に基づき必要経費の額を個別的に認 定して実額控除を行うこと、あるいは概算控除と選択的に右の実額控除を行うこと は、技術的及び量的に相当の困難を招来し、ひいて租税徴収費用の増加を免れず、 税務執行上少なからざる混乱を生ずることが懸念される。また、各自の主観的事情 や立証技術の巧拙によつてかえつて租税負担の不公平をもたらすおそれもなしとし ない。旧所得税法が給与所得に係る必要経費につき実額控除を排し、代わりに概算 控除の制度を設けた目的は、給与所得者と事業所得者等との租税負担の均衡に配意 しつつ、右のような弊害を防止することにあることが明らかであるところ、租税負 担を国民の間に公平に配分するとともに、租税の徴収を確実・的確かつ効率的に実 現することは、租税法の基本原則であるから、右の目的は正当性を有するものというべきである。
(四) そして、右目的との関連において、旧所得税法が具体的に採用する前記の 給与所得控除の制度が合理性を有するかどうかは、結局のところ、給与所得控除の 額が給与所得に係る必要経費の額との対比において相当性を有するかどうかにかか るものということができる。もつとも、前記の税制調査会の答申及び立法の経過に よると、右の給与所得控除は、前記のとおり給与所得に係る必要経費を概算的に控除しようとするものではあるが、なおその外に、(1) 給与所得は本人の死亡等に よつてその発生が途絶えるため資産所得や事業所得に比べて担税力に乏しいことを 調整する、(2) 給与所得は源泉徴収の方法で所得税が徴収されるため他の所得に 比べて相対的により正確に捕捉されやすいことを調整する、(3) 給与所得におい ては申告納税の場合に比べ平均して約五か月早期に所得税を納付することになるか らその間の金利を調整する、との趣旨を含むものであるというのである。しかし、 このような調整は、前記の税制調査会の答申及び立法の経過によつても、それがどの程度のものであるか明らかでないばかりでなく、所詮、立法政策の問題であつて、 所得税の性格又は憲法一四条一項の規定から何らかの調整を行うことが当然に要求 されるものではない。したがつて、憲法一四条一項の規定の適用上、事業所得等に 係る必要経費につき実額控除が認められていることとの対比において、給与所得に 係る必要経費の控除のあり方が均衡のとれたものであるか否かを判断するについて は、給与所得控除を専ら給与所得に係る必要経費の控除ととらえて事を論ずるのが 相当である。しかるところ、給与所得者の職務上必要な諸設備、備品等に係る経費 は使用者が負担するのが通例であり、また、職務に関し必要な旅行や通勤の費用に 充てるための金銭給付、職務の性質上欠くことのできない現物給付などがおおむね 非課税所得として扱われていることを考慮すれば、本件訴訟における全資料に徴し ても、給与所得者において自ら負担する必要経費の額が一般に旧所得税法所定の前 記給与所得控除の額を明らかに上回るものと認めることは困難であつて、右給与所 得控除の額は給与所得に係る必要経費の額との対比において相当性を欠くことが明 らかであるということはできないものとせざるを得ない。
(五) 以上のとおりであるから、旧所得税法が必要経費の控除について事業所得 者等と給与所得者との間に設けた前記の区別は、合理的なものであり、憲法一四条 一項の規定に違反するものではないというべきである。 三 次に、所論は事業所得等の捕捉率が給与所得の捕捉率を下回つていることを 指摘するが、その趣旨は、捕捉率の著しい較差が恒常的に存する以上、それは単に 徴税技術の巧拙等の事実上の問題であるにとどまらず、制度自体の欠陥を意味する ものとして、本件課税規定を違憲ならしめるものである、というのである。 事業所得等の捕捉率が相当長期間にわたり給与所得の捕捉率を下回つていること は、本件記録上の資料から認められないではなく、租税公平主義の見地からその是 正のための努力が必要であるといわなければならない。しかしながら、このような所得の捕捉の不均衡の問題は、原則的には、税務行政の適正な執行により是正されるべき性質のものであつて、捕捉率の較差が正義衡平の観念に反する程に著しく、かつ、それが長年にわたり恒常的に存在して租税法制自体に基因していると認められるような場合であれば格別(本件記録上の資料からかかる事情の存在を認めることはできない。)、そうでない限り、租税法制そのものを違憲ならしめるものとはいえないから、捕捉率の較差の存在をもつて本件課税規定が憲法一四条一項の規定に違反するということはできない。
四 また、所論は合理的理由のない租税優遇措置の存在をいうが、仮に所論の租税優遇措置が合理性を欠くものであるとしても、そのことは、当該措置自体の有効性に影響を与えるものにすぎず、本件課税規定を違憲無効ならしめるものということはできない。
五 以上のとおり、本件課税規定は憲法一四条一項の規定に違反しないから、原審の判断は結論において是認することができる。論旨は、憲法三二条違反をいう部分を含め、判決の結論に影響を及ぼさない点について原判決を非難するものであつて、いずれも採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法三九六条、三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官木下忠良、同伊藤正己、同谷口正孝、同木戸口久治、同島谷六郎、同長島敦の各補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
裁判官伊藤正己の補足意見は、次のとおりである。
私も、法廷意見と同様に、給与所得に係る必要経費について、実額控除を認めず、概算控除を設けるにとどまる本件課税規定は、給与所得者を事業所得者等と区別するものではあるが、それ自体としては憲法一四条一項の規定に違反するものではないと解する。そして、そのように解する理由についてもまた、法廷意見の説示するところに全く異論はない。しかし、本件は、租税についての国民の公平かつ平等な負担という租税法と憲法との関係にかかわるものであることにかんがみ、次の二点について補足的に意見を述べておくこととしたい。
一 法廷意見の説くように、租税法は、特に強い合憲性の推定を受け、基本的には、その定立について立法府の広範な裁量にゆだねられており、裁判所は、立法府の判断を尊重することになるのであるが、そこには例外的な場合のあることを看過してはならない。租税法の分野にあつても、例えば性別のような憲法一四条一項後段所定の事由に基づいて差別が行われるときには、合憲性の推定は排除され、裁判所は厳格な基準によつてその差別が合理的であるかどうかを審査すべきであり、平等原則に反すると判断されることが少なくないと考えられる。性別のような事由による差別の禁止は、民主制の下での本質的な要求であり、租税法もまたそれを無視することを許されないのである。しかし、本件は、右のような事由に基づく差別ではなく、所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別であるから、厳格な基準による審査を必要とする場合でないことは明らかである。
二 本件課税規定それ自体は憲法一四条一項の規定に違反するものではないが、本件課税規定に基づく具体的な課税処分が常に憲法の右規定に適合するとまではいえない。特定の給与所得者について、その給与所得に係る必要経費(いかなる経費が必要経費に当たるかについては議論の余地があり得ようが、法廷意見もいうように、給与所得についても収入金額を得るための必要経費の存在を観念し得る。)の額がその者の給与所得控除の額を著しく超過するという事情がみられる場合には、右給与所得者に対し本件課税規定を適用して右超過額を課税の対象とすることは、明らかに合理性を欠くものであり、本件課税規定は、かかる場合に、当該給与所得者に適用される限度において、憲法一四条一項の規定に違反するものといわざるを得ないと考える(なお、必要経費の額が給与所得控除の額を著しく超過するような場合には、当該所得が真に旧所得税法の予定する給与所得に当たるかどうかについて、慎重な検討を要することは、いうまでもない。)。
この点を本件についてみるに、本件における必要経費の額が本件課税規定による給与所得控除の額を著しく超過するものと認められないことは、原判決の説示に照らして明らかであるから、本件課税規定を適用して本件課税処分をしたことに憲法一四条一項違反があるということはできない。
裁判官木下忠良、同長島敦は、裁判官伊藤正己の補足意見第二項に同調する。
裁判官谷口正孝の補足意見は、次のとおりである。
給与所得者について必要経費の実額控除を認めず旧所得税法所定の給与所得控除しか認めないことは、事業所得者等について必要経費の実額控除を認めていることとの対比において均衡を欠き、憲法一四条一項に違反するという上告人らの主張を排斥する法廷意見を補足して伊藤裁判官の敷衍して説示されているところには、私もまた、同じ考えを持つ者として同調する。しかし、それは同条項違反の有無を論ずる場面に限定してのことである。すなわち、そこでは、給与所得者が給与を得るについての必要経費の額が前記給与所得控除の額を著しく超える場合について、事業所得者等の必要経費の実額控除を認める制度と比較しての差別取扱いが論じられており、そのような場合については、旧所得税法の適用上憲法一四条一項違反の問題を生ずるとしたわけである。ところが、給与所得者の必要経費の額が右の給与所得控除の額を超過することが明らかであるが、その程度が著しいとまではいえない場合については明言されていない。私は、その場合については、もとより同条項違反の問題は生じないものと考える。そのことは、同条項について法廷意見の展開している合理的差別容認の考え方の系列の中に十分包摂し得るところであるからである。
しかし、給与所得者について給与所得控除の額を超える必要経費が存する場合には、その超過が明らかである限り、その程度が著しい場合であると否とを問わず、当該超過部分については実質上所得がないことになるのではないかが改めて問われてよい。なるほど、給与所得を得るについての必要経費の額をいかなる基準により算定するかについては多分に政策的考慮の働くことは認めざるを得ないであろう。
だが、このような政策的考慮を認めるにせよ、給与所得者について必要経費の存在することは否定し難いところであり、しかも、その中には所得を得るために不可避的に支出しなければならない経費であつて、政策的考慮を容れる余地のないものがあることも承認せざるを得ない。法廷意見もまたこのことを前提としているものと思われる。してみると、給与所得者について給与所得控除の額を明らかに超えて必要経費の存する場合を想定し、これに論及する必要があることは当然である。もつとも、この場合にも給与所得として計上されるべきものが存する以上、その所得者に対し名目上の給与額に応じて課税することも立法府の裁量の問題として処理すれば足りるという見解もあろう。しかし、私はこのような見解は到底採用し得ないものと考える。けだし、前述のごとく必要経費の額が給与所得控除の額を明らかに超える場合は、その超過部分については、もはや所得の観念を容れないものと考えるべきであつて、所得の存しないところに対し所得税を課する結果となるのであり、およそ所得税賦課の基本理念に反することになるからである。
そして、所得と観念し得ないものを対象として所得税を賦課徴収することは、それがいかに法律の規定をもつて定められ租税法律主義の形式をとるにせよ、そして、憲法一四条一項の規定に違反するところがないにせよ、違憲の疑いを免れないものと考える。もつとも、本件において具体的に支出された必要経費の額が給与所得控除の額を超過するものと認められないことは、記録上明らかであるから、この問題は争点として取り上げるべきことではない。
裁判官木戸口久治の補足意見は、次のとおりである。
旧所得税法中の給与所得に係る課税関係規定自体が憲法一四条一項の規定に違反するものでないことは、法廷意見において説示するとおりであつて、私もこれに賛成するものである。しかし、給与所得に係る課税関係規定が法的評価において憲法一四条一項の規定に違反するものでないとしても、一般に、給与所得者が、事業所得者等よりも重い租税負担を課せられているという不公平感を抱いていることも、否定し得ないところである。
本件記録上の資料によると、本件係争年度である昭和三九年度において、所得の種類別の所得者数に対する納税者数の割合は、給与所得者(一年を通じて勤務した民間給与所得者)にあつては七九・三パーセント、農業所得者(専業農家及び第一種兼業農家)にあつては七・二パーセント、農業以外の事業所得者にあつては二四・九パーセントであり、また、国民所得に対する課税所得の割合は、給与所得にあつては七六・三パーセント、農業所得にあつては六・九パーセント、農業以外の事業所得にあつては二七・〇パーセントであり、これらの係数は、本件係争年度の前後数年においても大幅な変化のないことが認められる。さらに、近年における所得の種類別の所得者数に対する納税者数の割合が、給与所得者(前に同じ)にあつては約九〇パーセントに達しているのに対し、農業所得者(前に同じ)にあつては約一五パーセント、農業以外の事業所得者にあつては約四〇パーセントにとどまつていることは、周知のところである。このような納税者割合、課税所得割合の較差のある程度の部分が実質的な所得の差に基づいていることは否定できないとしても、その少なからぬ部分は、源泉徴収及び申告納税という徴税方式の違いを主因とする所得捕捉の不均衡や、各種の租税優遇措置によるものと考えられるのであつて、右に述べた較差から、事業所得者の租税負担が給与所得者のそれよりもかなり低くなつており、しかもそれが特定年度における特異な現象ではなく、相当長期にわたつて継続しているものということができ、この点が給与所得者に対し租税負担の不公平感を抱かせる原因となつているものと考えられる。
憲法一四条一項の命ずる租税公平主義は、租税法の制定及びその執行につき、合理的理由なくして、特定の者を不利益に取り扱うことを禁止するのみでなく、特定の者に対し特別の利益を与えることをも禁止するものである。右に指摘したように事業所得の捕捉率が低いということは、それだけ、事業所得者が租税負担を不当に免れていることを意味するのであり、また、各種の租税優遇措置も、それが当該立法目的に照らして合理性を欠くに至つたときは、事業所得者に不当な利益を与えることとなる。このような所得の捕捉漏れや不合理な租税優遇措置による事業所得者と給与所得者との実質的な租税負担の較差が恒常的となり、かつ、それが著しい程度に達したときは、かかる事態は憲法一四条一項違反の問題となり得るものと考える。右の較差が実際にどの程度に達しているかは必ずしも明らかであるとはいえないが、先に述べたように、事業所得者の租税負担が給与所得者のそれよりもかなり低くなつていることは現実であり、租税負担について給与所得者層の持つ不公平感は無視し得ないものとなつているのが実状であつて、その是正に向けての早急かつ積極的な努力が払われなければならないものと考える。
以上、給与所得課税に対する幅広い不公平感の存在が亡Dの提起した本件訴訟の背景をなしているものと思われることにかんがみ、補足的に意見を述べた次第である。
裁判官島谷六郎の補足意見は、次のとおりである。
上告人らは、旧所得税法が事業所得者等に必要経費の実額控除を認めながら、給与所得者にこれを認めないのは不公平である、と主張する。
給与所得者に認められた給与所得控除には必要経費を概算的に控除する趣旨が含まれていることは、法廷意見の説示するとおりであり、本件の場合には、具体的に支出された必要経費の実額が旧所得税法所定の給与所得控除の額を超えるものと認められないことが、原判決の説示に徴して明らかである。
しかしながら、一般論としては、給与所得者の必要経費の実額が給与所得控除の額を超える場合の存する可能性がないとはいえず、超過の程度が著しいときは、給与所得に係る課税関係規定の適用違憲の問題が生ずることになると考えられるのであつて、私は、この点において、伊藤裁判官の補足意見第二項に同調するものである。また、右の超過の程度が著しいとはいえないときであつても、超過額の存する限
り所得のないところに課税が行われる結果となり、それが直ちに違憲の問題を生ぜしめるものではないとしても、純所得課税という所得税の基本原則に照らし、安易に看過し得ないものとなるといわなければならない。
したがつて、右のような課税が行われることがないよう、給与所得者にも必要経費の実額控除を認め、概算控除と実額控除とのいずれかを任意に選び得るという選択制の採用の問題をも含めて、給与所得控除制度についての幅広い検討が期待されるところである。
最高裁判所大法廷
裁判長裁判官 寺 田 治 郎
裁判官 木 下 忠 良
裁判官 鹽 野 宜 慶
裁判官 伊 藤 正 己
裁判官 谷 口 正 孝
裁判官 大 橋 進
裁判官 木 戸 口 久 治
そんな考え深い人の疑問を受けて「特定支出控除」というものが昭和62年の税制改正で創設されました。
まさに言い分そのままです。
「サラリーマンの経費が給与所得控除の額より大きな額になったら、その超える部分を経費にしますよ」
という制度です。
(2)何度かの改正
そもそもは
「サラリーマンの経費が給与所得控除の額より大きな額になったら、その超える部分を経費にしますよ」
という感じの制度です。
ただ、サラリーマンの「領収書のいらない経費」は日本では結構な額なのでそれを超えるのはなかなかに大変です。
それで、それを超えやすいように何度かの改正がされて次のようになってきました。
①「サラリーマンの経費」の範囲の拡大
徐々に拡大されてきました。
例:そもそもはスーツ代はダメだったのがOKになりました。(平成24年度改正)
②「給与所得控除の額を超える」というハードルが高すぎたので「給与所得控除の半額を超える」という半分のハードルになりました。
「65万円を超える」が「32.5万円を超える」になりました。
所得税法条文(給与所得者の特定支出の控除の特例)
(給与所得者の特定支出の控除の特例)
第五十七条の二 居住者が、各年において特定支出をした場合において、その年中の特定支出の額の合計額が第二十八条第二項(給与所得)に規定する給与所得控除額の二分の一に相当する金額を超えるときは、その年分の同項に規定する給与所得の金額は、同項及び同条第四項の規定にかかわらず、同条第二項の残額からその超える部分の金額を控除した金額とする。
2 前項に規定する特定支出とは、居住者の次に掲げる支出(その支出につきその者に係る第二十八条第一項に規定する給与等の支払をする者(以下この項において「給与等の支払者」という。)により補塡される部分があり、かつ、その補塡される部分につき所得税が課されない場合における当該補塡される部分及びその支出につき雇用保険法(昭和四十九年法律第百十六号)第十条第五項(失業等給付)に規定する教育訓練給付金、母子及び父子並びに寡婦福祉法(昭和三十九年法律第百二十九号)第三十一条第一号(母子家庭自立支援給付金)に規定する母子家庭自立支援教育訓練給付金又は同法第三十一条の十(父子家庭自立支援給付金)において準用する同号に規定する父子家庭自立支援教育訓練給付金が支給される部分がある場合における当該支給される部分を除く。)をいう。
一 その者の通勤のために必要な交通機関の利用又は交通用具の使用のための支出で、その通勤の経路及び方法がその者の通勤に係る運賃、時間、距離その他の事情に照らして最も経済的かつ合理的であることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもののうち、一般の通勤者につき通常必要であると認められる部分として政令で定める支出
二 転任に伴うものであることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされた転居のために通常必要であると認められる支出として政令で定めるもの
三 職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得することを目的として受講する研修(人の資格を取得するためのものを除く。)であることにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもののための支出
四 人の資格を取得するための支出で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもの
五 転任に伴い生計を一にする配偶者との別居を常況とすることとなつた場合その他これに類する場合として政令で定める場合に該当することにつき財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされた場合におけるその者の勤務する場所又は居所とその配偶者その他の親族が居住する場所との間のその者の旅行に通常要する支出で政令で定めるもの
六 次に掲げる支出(当該支出の額の合計額が六十五万円を超える場合には、六十五万円までの支出に限る。)で、その支出がその者の職務の遂行に直接必要なものとして財務省令で定めるところにより給与等の支払者により証明がされたもの
イ 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものとして政令で定めるもの及び制服、事務服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服で政令で定めるものを購入するための支出
ロ 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出
3 第一項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書(次項において「申告書等」という。)に第一項の規定の適用を受ける旨及び同項に規定する特定支出の額の合計額の記載があり、かつ、前項各号に掲げるそれぞれの特定支出に関する明細書及びこれらの各号に規定する証明の書類の添付がある場合に限り、適用する。
4 第一項の規定の適用を受ける旨の記載がある申告書等を提出する場合には、同項に規定する特定支出の支出の事実及び支出した金額を証する書類として政令で定める書類を当該申告書等に添付し、又は当該申告書等の提出の際提示しなければならない。
5 前各項に定めるもののほか、第二項に規定する特定支出の範囲の細目その他第一項の規定の適用に関し必要な事項は、政令で定める。
※しかも、給与所得控除自体はこの数年段階的に縮小されています。
なので、
「特定支出控除の適用なんて無理だ」
と何年か前に思ったとしても、実は毎年ハードルが下がってきているのです。
みなさんのハードルはどれぐらいでしょうか?数字を入れてみましょう。(安心してください。この数字は収集されません。)
0円がハードルです。
2.どんな人は受けられる可能性が高いの?
(1)自腹の出費がある人
では、どんな人がこの「特定支出控除」を受けられるのでしょうか?
「サラリーマンの経費」ですが、会社が負担しているものはダメです。
なので、税金のかからない通勤手当としてお金をもらっている人は「サラリーマンの経費」計上はできません。
自腹で経費を払っている人が可能性大です。
では、どんな経費がサラリーマンの経費として認められているんでしょうか?
所得税法施行令条文(特定支出の範囲)
(給与所得者の特定支出の範囲)
第百六十七条の三 法第五十七条の二第二項第一号(給与所得者の特定支出の控除の特例)に規定する政令で定める支出は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額に相当する支出(航空機の利用に係るものを除く。)とする。
一 交通機関を利用する場合(第三号に掲げる場合に該当する場合を除く。) その年中の運賃及び料金(特別車両料金その他の客室の特別の設備の利用についての料金として財務省令で定めるもの(以下この号において「特別車両料金等」という。)を除く。)の額の合計額(当該合計額が法第五十七条の二第二項第一号の証明がされた経路及び方法による一月当たりの定期乗車券又は定期乗船券の価額(特別車両料金等に係る部分を除く。)の合計額を超えるときは、当該合計額)
二 自動車その他の交通用具を使用する場合(次号に掲げる場合に該当する場合を除く。) 法第五十七条の二第二項第一号の証明がされた経路及び方法により交通用具を使用するために支出する燃料費及び有料の道路の料金の額並びに当該交通用具の修理のための支出(第百八十一条各号(資本的支出)に掲げる金額に相当する部分及びその者の故意又は重大な過失により生じた事故に係るものを除く。)でその者の通勤に係る部分の額のその年中の合計額
三 交通機関を利用するほか、併せて自動車その他の交通用具を使用する場合 前二号の規定に準じて計算した金額
2 法第五十七条の二第二項第二号に規定する政令で定める支出は、転任の事実が生じた日以後一年以内にする同項に規定する転居のための自己又はその配偶者その他の親族に係る支出で次に掲げる金額に相当するものとする。
一 当該転居のための旅行に通常必要であると認められる運賃及び料金(特別車両料金その他の客室の特別の設備の利用についての料金として財務省令で定めるものを除く。第四項において同じ。)の額
二 当該転居のために自動車を使用することにより支出する燃料費及び有料の道路の料金の額
三 当該転居に伴う宿泊費の額(通常必要であると認められる額を著しく超える部分を除く。)
四 当該転居のための生活の用に供する家具その他の資産の運送に要した費用(これに付随するものを含む。)の額
3 法第五十七条の二第二項第五号に規定する政令で定める場合は、配偶者と死別し、若しくは配偶者と離婚した後婚姻をしていない者又は配偶者の生死の明らかでない者で財務省令で定めるものが転任に伴い生計を一にする子で財務省令で定めるものとの別居を常況とすることとなつた場合とする。
4 法第五十七条の二第二項第五号に規定するその者の旅行に通常要する支出で政令で定めるものは、同号に規定する旅行でその旅行に係る運賃、時間、距離その他の事情に照らし最も経済的かつ合理的と認められる通常の経路及び方法によるものに要する運賃及び料金(一月に四往復を超えて当該旅行をした場合には、当該超えてした旅行に要する運賃及び料金を除く。)とする。
5 法第五十七条の二第二項第六号イに規定する政令で定める図書は、次に掲げる図書であつて職務に関連するものとする。
一 書籍
二 新聞、雑誌その他の定期刊行物
三 前二号に掲げるもののほか、不特定多数の者に販売することを目的として発行される図書
6 法第五十七条の二第二項第六号イに規定する政令で定める衣服は、次に掲げる衣服であつて勤務場所において着用することが必要とされるものとする。
一 制服
二 事務服
三 作業服
四 前三号に掲げるもののほか、法第五十七条の二第二項に規定する給与等の支払者により勤務場所において着用することが必要とされる衣服
(特定支出に関する明細書の記載事項)
第百六十七条の四 法第五十七条の二第三項(給与所得者の特定支出の控除の特例)に規定する特定支出に関する明細書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 法第五十七条の二第二項各号に掲げるそれぞれの支出につきその支出の内容、相手方の氏名又は名称、年月日及び金額並びに当該支出につき同項に規定する給与等の支払者により補塡される部分があり、かつ、その補塡される部分につき所得税が課されない場合における当該補塡される部分の金額及び当該支出につき同項に規定する教育訓練給付金、母子家庭自立支援教育訓練給付金又は父子家庭自立支援教育訓練給付金が支給される部分がある場合における当該支給される部分の金額
二 次に掲げる支出の区分に応じそれぞれ次に定める事項
イ 法第五十七条の二第二項第一号に掲げる支出 同号に規定する通勤の経路及び方法
ロ 法第五十七条の二第二項第二号に掲げる支出 同号に規定する転任の前後の勤務する場所及び住所(住所がない場合には居所)
ハ 法第五十七条の二第二項第三号に掲げる支出 同号に規定する研修の内容
ニ 法第五十七条の二第二項第四号に掲げる支出 同号に規定する人の資格の内容
ホ 法第五十七条の二第二項第五号に掲げる支出 同号に規定するその者の勤務する場所又は居所とその者の配偶者その他の親族が居住する場所
ヘ 法第五十七条の二第二項第六号イに掲げる支出 同号イに規定する図書の内容又は同号イに規定する衣服の種類
ト 法第五十七条の二第二項第六号ロに掲げる支出 同号ロに規定する接待、供応、贈答その他これらに類する行為の相手方の氏名又は名称及び当該相手方との関係
三 その他参考となるべき事項
(特定支出の支出等を証する書類)
第百六十七条の五 法第五十七条の二第四項(給与所得者の特定支出の控除の特例)に規定する政令で定める書類は、次の各号に掲げる支出の区分に応じ当該各号に定める書類とする。
一 法第五十七条の二第二項第一号から第四号まで及び第六号に掲げる支出 当該支出につき、これを領収した者の領収を証する書類その他の当該支出の事実及び支出した金額を証する書類
二 法第五十七条の二第二項第五号に掲げる支出 当該支出につき、これを領収した者の領収を証する書類その他の当該支出の事実及び支出した金額を証する書類並びに次に掲げる場合の区分に応じ次に定める書類
イ 航空機を利用する場合 その航空機に搭乗をした年月日及び搭乗区間につき、財務省令で定めるところにより、航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)第二条第十八項(定義)に規定する航空運送事業を営む者が証する書類
ロ 鉄道、船舶又は自動車(以下この条において「鉄道等」という。)を利用する場合(その利用に係る運賃及び料金の額が財務省令で定める金額以上である場合に限る。) その鉄道等を利用した年月日及び乗車又は乗船の区間につき、財務省令で定めるところにより、鉄道事業法第七条第一項(事業基本計画の変更等)に規定する鉄道事業者、海上運送法(昭和二十四年法律第百八十七号)第二条第二項(定義)に規定する船舶運航事業を営む者又は道路運送法(昭和二十六年法律第百八十三号)第二条第二項(定義)に規定する自動車運送事業を営む者が証する書類
下のボックスに見積額を入れていきましょう。集計されます。
①通勤費
通勤費って?
①いわゆる通勤費です。
※航空機はダメ(新幹線通勤は聞いたことがありますが、たしかに航空機通勤ってなさそうですね。)
※特別急行料金等はOKだけど、特別車両料金はNG(要するに新幹線はOKだけど、グリーン車はNG)
②その年のもの
※定期券や回数券もその年のものだけになります。
こんな書類を作成します。
②転任に伴う転居費
転居費って?
①転任に伴う転居だけです。
※転任から1年以内の支出
②通常必要なものに限られます。
飛行機代はよいけど、ファーストクラスはNG。(一般的には「ファーストクラスでの転居はダメ」という意味ですね。)
③宿泊、移動、資産の運送の費用になります。
家の契約関係費用NGです。畳替えや壁の塗り替えの費用もダメです。要注意です。
こんな書類を作成します。
③研修費
研修費って?
①職務の遂行に直接必要な研修(研修のための交通費も含みます。)
※資格取得は別枠です。
こんな書類を作成します。
④資格取得費
資格取得費って?
①職務の遂行に直接必要な資格取得
※その年のものだけです。(2年コースなどの場合には、1年分だけということになります。)
※授業料が未払いだとダメです。「特定支出」になりません。
唯一の救いは、結果不合格でもOKというところです。
ただ、不合格でうれしい人はいないと思いますが。。
簿記、珠算及び英語の検定資格、栄養士及び調理師の資格、
運転免許、危険物取扱者弁護士、公認会計士、税理士なども可
こんな書類を作成します。
⑤単身赴任に伴う帰宅旅費
帰宅旅費って?
①単身赴任の方が家族の元に帰る費用
※月に4往復まで(この制限は平成30年から撤廃予定です。家族のもとに帰るのに税制が足止めしていてはいけないという判断なのだと思います。)
新幹線はOKだけど、グリーン車はNG
ファーストクラスもNG
こんな書類を作成します。
料金が1万5千円を超えるときは、各交通機関のカウンターや車掌、精算所で搭乗券、乗車券、乗船券等と下の証明依頼書を書いてもらって保存が必要です。
この書類だけは、年末にそろえることが難しいですね。単身赴任になったら計画的に書類を作成して帰宅しましょう。
⑥図書費
図書費って?
書籍、新聞その他定期刊行物です。
※電子書籍OK、見るためのPC等機器NG
こんな書類を作成します。
⑦衣服費
衣服費って?
①勤務場所で着用が定められている衣服
※スーツ着用の職場ならスーツOK
かばんや靴は、通常だめです。
まず、かばんは通常、衣服とはいいません。上記の条文をよく読みましょう。
靴が制服であれば条文に適合するでしょうが、制服の靴を自腹で買わせる会社がどれだけあるか。。
※私服OKの職場の私服NGです。
こんな書類を作成します。
⑧交際費
交際費って?
①いわゆる交際費です。
※接待等の相手内容を右の書類に書きます。
※同僚との親睦、同僚の慶弔のための支出、労働組合の組合費等はNGです。気をつけましょう。
こんな書類を作成します。
⑥、⑦、⑧は合計65万円までという上限があります。
※スーツ代や図書代ぐらいは結構な人が支出していると思います。そこに資格取得の学校に通いつつ、スーツとかまとめて買ったりすればハードルを越えたりしませんか?
上記のボックスに数字を入れれば下記で判定可能です。
見積特定支出の合計額:0円
年収からの超えるべきハードル:0円
特定支出控除が使えます。計画的に経費を使い、領収書を集めて書類を作成しましょう。残念ながら今の見積もりでは特定支出控除は使えません。無理して経費を出す必要はありませんが、購入するタイミングなど計画的に検討できるかもしれません。
(2)マメな人
もう一つ大事なことがあります。
それは、「マメに書類を整える」ことです。
医療費控除のように
「領収書をまとめておいて確定申告の時期に集計」という感覚だとだめです。
領収書だけだとダメなんです。
証明書を会社に出してもらわないといけません。
所得税法施行規則(給与等の支払者による証明等)
(給与等の支払者による証明等)
第三十六条の五 法第五十七条の二第二項各号(給与所得者の特定支出の控除の特例)に規定する証明は、同条第一項の規定の適用を受けようとする居住者の書面による申出に基づき、同条第二項に規定する支出の次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める事項(当該支出につき同項に規定する給与等の支払者(以下この項において「給与等の支払者」という。)により補填される部分があり、かつ、その補填される部分につき所得税が課されない場合には、当該補填される部分の金額を含む。)につき書面により行われるものとする。
一 法第五十七条の二第二項第一号に掲げる支出 次に掲げる事項
イ その者の氏名及び住所(国内に住所がない場合には、居所。以下この項において同じ。)並びに勤務する場所
ロ その者の通勤の経路及び方法並びに当該経路及び方法が運賃、時間、距離その他の事情に照らして最も経済的かつ合理的であると認められる旨
二 法第五十七条の二第二項第二号に掲げる支出 次に掲げる事項
イ その者の氏名並びに転任の前後の勤務する場所及び住所
ロ その者の転任の事実が生じた年月日
三 法第五十七条の二第二項第三号に掲げる支出 次に掲げる事項
イ その者の氏名及び住所
ロ その研修がその者の職務の遂行に直接必要な技術又は知識を習得するためのものである旨
ハ その研修を行う者の名称並びにその研修を行う場所及び期間
四 法第五十七条の二第二項第四号に掲げる支出 次に掲げる事項
イ その者の氏名及び住所
ロ その人の資格の取得がその者の職務の遂行に直接必要なものである旨
五 法第五十七条の二第二項第五号に掲げる支出 次に掲げる事項
イ 第二号イ及びロに掲げる事項
ロ その者が法第五十七条の二第二項第五号又は令第百六十七条の三第三項(給与所得者の特定支出の範囲)に規定する場合のいずれかに該当する旨
ハ その者の配偶者その他の親族が居住する場所
六 法第五十七条の二第二項第六号イに規定する図書を購入するための支出 次に掲げる事項
イ その者の氏名及び住所
ロ その図書の購入がその者の職務の遂行に直接必要なものである旨及びその職務の内容
ハ その図書の名称及び内容
七 法第五十七条の二第二項第六号イに規定する衣服を購入するための支出 次に掲げる事項
イ その者の氏名及び住所
ロ その衣服の購入がその者の職務の遂行に直接必要なものである旨及びその職務の内容
ハ その衣服の種類
八 法第五十七条の二第二項第六号ロに掲げる支出 次に掲げる事項
イ その者の氏名及び住所
ロ その接待、供応、贈答その他これらに類する行為(ハにおいて「接待等」という。)のための支出がその者の職務の遂行に直接必要なものである旨及びその職務の内容
ハ その接待等の内容並びに当該接待等の相手方の氏名又は名称及び当該相手方との関係
2 令第百六十七条の三第一項第一号に規定する財務省令で定める料金は、特別車両料金、特別船室料金その他令第百六十七条の五第二号ロ(特定支出の支出等を証する書類)に規定する鉄道等の客室の特別の設備の利用についての料金(寝台料金で六千四百八十円以下のものを除く。)とする。
3 令第百六十七条の三第二項第一号に規定する財務省令で定める料金は、前項に規定する料金及び航空機の客室の特別の設備の利用についての料金とする。
4 令第百六十七条の三第三項に規定する配偶者の生死の明らかでない者で財務省令で定めるものは、令第十一条第一項各号(寡婦の範囲)に掲げる者の妻又は夫とする。
5 令第百六十七条の三第三項に規定する生計を一にする子で財務省令で定める者は、令第十一条第二項に規定する子及び特別障害者である子とする。
(確定申告書に鉄道等の利用区間等を証する書類の添付等をしなければならない運賃又は料金の限度額等)
第三十六条の六 令第百六十七条の五第二号ロ(特定支出の支出等を証する書類)に規定する財務省令で定める金額は、一万五千円とする。
2 前項に規定する金額は、一の交通機関の利用に係る運賃及び料金の額によるものとする。この場合において、当該交通機関が旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律(昭和六十一年法律第八十八号)第一条第一項(会社の目的及び事業)に規定する旅客会社、旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律の一部を改正する法律(平成十三年法律第六十一号)附則第二条第一項(指針の公表等)に規定する新会社及び旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律の一部を改正する法律(平成二十七年法律第三十六号)附則第二条第一項(指針の公表等)に規定する新会社(以下この項において「旅客会社等」という。)が営む旅客鉄道事業(日本国有鉄道改革法(昭和六十一年法律第八十七号)第九条第一項(連絡船事業の引継ぎ)に規定する連絡船事業を含む。以下この項において同じ。)に係るものであるときは、各旅客会社等が営む旅客鉄道事業に係る鉄道又は船舶の利用に係る運賃及び料金の額の合計額によるものとする。
3 令第百六十七条の五第二号イ又はロに定める書類は、同号イ又はロに規定する航空運送事業を営む者又は鉄道事業者、船舶運航事業を営む者若しくは自動車運送事業を営む者が、法第五十七条の二第二項第五号(給与所得者の特定支出の控除の特例)に掲げる支出をした者からの航空機又は令第百六十七条の五第二号ロに規定する鉄道等を利用した年月日及び搭乗又は乗車若しくは乗船した区間の記載がある書面による申出に基づいて証明をするものとする。
様式は上記の注釈に格納してある通りです。
書類に必要事項を記入して会社の印鑑を貰います。
「仕事で使うスーツ買うお金を出してくれ」
というわけではなくて、
「仕事で使うスーツを買った証明に印鑑を押してくれ」
というお願いなので、きちんと話せば印鑑は押してくれると思います。
出費のたびにもらうのか年末にまとめて貰うのかについては特に規定がなさそうなので会社で協力してもらいやすいように書類は作成しましょう。
当然ですが嘘を書いてはいけません。脱税になってしまいます。
会社だけで良いのかというと帰宅旅費については、1万5千円以上の料金だと交通機関の利用の度に証明をもらわないといけません。
列車の車掌さんや空港のカウンターで証明書に印鑑を貰うように様式の一番最後にあります。
面倒なようですが、必須です。
「領収書を集めて経費として認めてもらう」
というのはマメでないと不可能です。
がんばりましょう。
3.どんな手続きをする必要があるの?
(1)確定申告
領収書と証明書を集めればあとは確定申告書を作成するだけです。
材料があれば何も問題はありません。
特定支出控除については源泉徴収票と領収書と上記の証明書を揃えれば十分です。
そうすれば、次の明細書を埋められます。
税理士の肌感覚として
確定申告で大変なのは
「材料が揃ってないのに申告書を作り始めるとき」です。
お好み焼き作りでも、材料を揃えてからはじめないと、粉まみれで買い物に行くことになります。着替え、シャワー、洗濯、掃除、、、大変です。
それは、
「お好み焼き作りが大変」なのではなく「段取りが悪い」のです。
確定申告も似たようなところがあります。全部の資料をまずはきちんと揃えましょう。全資料さえそろえば意外と簡単に終わります。
特定支出控除についていえば
①特定支出についての領収書
②給与等支払い者の証明書
の2点です。
ただ、
特定支出控除を適用しようとされる方は、たいていの場合他の規定も使うと思います。
それで、他にも確定申告に必要なものがあると思います。
全ての必要書類を整えてから確定申告書は作成するようにしましょう。